大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(オ)1306号 判決

上告人

渡部有幸

右訴訟代理人弁護士

渡辺一成

大倉忠夫

被上告人

日本ユニカー株式会社

右代表者代表取締役

小林是太

右訴訟代理人弁護士

渡辺修

竹内桃太郎

吉沢貞男

宮本光雄

山西克彦

富田武夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和五〇年(ネ)第二三八八号地位確認等請求事件について、同裁判所が昭和五一年九月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺一成、同大倉忠夫の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解を前提として原判決を非難するものであって、いずれも採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 服部高顕 裁判官 環昌一)

《参考》

(昭和五一年(オ)第一三〇六号 上告人 渡部有幸)

上告代理人渡辺一成、同大倉忠夫の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背がある。

第一、原判決は労働契約関係の解釈を誤り被上告人会社の就業規則の解釈を誤った違法がある。

一、上告人は、後述する刑事事件による勾留中、被上告人会社の就業規則二三条二号「病気以外の理由によって欠勤が引き続き六〇日に及んだ場合」に該当するとして、本件解雇の意思表示をうけた。原判決は本件解雇を有効とし、上告人の行為が右就業規則の条項に証当するという。原判決は上告人の行為ないしはその認定した事実関係が就業規則の右条項に該当するというだけで、どのような趣旨で該当するのか、右条項をどのように解釈するのか、必ずしも明確にしない(その意味で原判決には理由不備の違法もある)。しかし第一に原判決は、長期にわたり労務の提供がないときは労働者の労働契約関係上の債務不履行に該当しそれだけで解雇できるという前提に立ち(原判決一三丁裏等)、労働者の欠勤の態様が使用者側の人員配置や企業運営にいかなる支障を来たすか、その結果使用者の業務の遂行がいかに阻害されるか等の事実関係は全く考慮する必要がないという論理に立脚している(原判決はそのような事実関係について何ら認定するところなく、また被上告人からの主張立証も全くない。わずかに原判決九丁裏末尾の、上告人の欠勤中被上告人が下請業者一名と契約して上告人担当業務を代行させた旨の事実認定がある。しかし事実に反するうえ全く立証されていないことであるし、それが直ちに上告人解雇を正当化する程の業務の支障とはいえない)。

しかし労働契約ないしは雇用関係は、労働者がその労働力の提供を「約する」ことを要素とし(民法六二三条参照)、労働契約ないしは雇用関係における従業員たる身分ないしは地位はその労働力の提供を「約した」ところに根拠があるのであって、或る時期労働者が労務に服さなかったとしてもその期間対応する賃金が支払われないことがあるのは格別、直ちに労働契約上の債務不履行として労働契約の解除つまり右身分ないしは地位の剥奪たる解雇をなしうる訳ではない。右契約上の地位すなわち従業員の身分と、右契約の具体化として現実に労務に服しその期間に対応する賃金を受取る法律関係とは区別されなければならない。労働力の不提供が使用者側における労働力の安定・適正な配置による業務の円滑な遂行を阻害するに至るとか、企業の対外的信用を失墜させたりあるいは職場移序の維持に支障を生ぜしめ、雇用関係維持の基盤たる信頼関係が失われる程度に至ってはじめて使用者は労働力不提供の期間に相応する賃金の支払義務を免れるにとどまらず労働者を解雇することができ、かかる解雇が正当化されるようになるというべきである。

右の趣旨は例えば労働基準法七条等にあらわれる。労働者の公民権の行使等は当に労働者の労働契約関係外の市民としての権利義務の行使であり、労働契約関係上は労働者の責に帰すべき労働力の不提供といわなければならない。しかし労働契約関係が長期継続的な法律関係でありかつ直接労働者の人格を拘束支配すべき契約関係であるところ労働者の全人格ないしはその余生活時間を使用者において拘束支配することが不可能でありかつ許容さるべきでないという労働契約関係に当然伴う制約に照してみれば、労働者側の欠勤はある程度不可避の現象である。これを直ちに労働契約関係上の債務不履行として労働契約の解除つまり解雇をなしうるものとすることは、労働契約関係の特質を無視したものといわなければならない。右法条はこの欠勤の不可避性ないしは必然性を容認し、これを公民権行使等の場合につき労働者の権利として保障したものであり、それは同時にかかる欠勤を労働契約関係上の債務不履行と扱ってはならない趣旨をも宣言したものと考えられる。問題はかかる労働力の不提供つまり欠勤の必然性は公民権行使等の場合に限らず病気その他あらゆる客観的障害の場合、また労働者が労働契約関係外のいわば市民として行動する場合に起りうることである。労働力の不提供がいかなる場合に解雇事由となるかは重大な問題であり、それは労働契約関係の特質に照し検討されなければならない。

しかるに原判決は誤って或る期間労働力の提供がなければそれだけで労働契約関係上の債務不履行であり直ちに解雇をなしうるという前提に立ち本件解雇を是認した。労働契約関係の解釈を誤ったものであるが、その結果原判決は上告人の欠勤により被上告人がその人員配置や企業運営においていかなる支障を受けたかの説明を欠くことになり、なぜ本件解雇が有効となるかの理由を附さない理由不備にも陥るのである。

二、原判決は被上告人会社の就業規則(以下規則と略称する)の六二条と本件解雇の根拠とされた同二三条二号との関係について解釈を誤った。

規則六二条(原判決一一丁裏)は公務の執行、官公庁への出頭(本人の不正行為によるときを除く)、公民権行使、災害その他やむをえず労働者が労務に服さない場合を欠勤等と扱わないとする規定であり、前述した労働基準法七条の趣旨を受けたものである。

規則六二条に該る場合はその労働力不提供を欠勤とはしないというのであるからそれは解雇事由を定めた規則二三条二号にいう欠勤ではない。他方規則二三条二号は改めて病気による欠勤を解雇事由から除外する。原判決は規則六二条があるから規則二三条二号は病気だけを解雇事由から除外したものだとする(原判決一一丁以下)。

長期かつ不定期の病気による欠勤は、人情のうえでは考慮すべきものがあるにしても、使用者の人員配置や企業運営上著しい支障を来たすことがある。病気欠勤の場合には解雇してはならぬという一般原則はなく、病気欠勤を解雇事由から除外するか否かは使用者の労務政策の問題にすぎない(業務上傷病の場合でも解雇が禁じられていないことにつき労働基準法一九条、八一条参照)。また病気欠勤は常に不可抗力によるものともいえず、労働者の責に帰すべき労働力不提供に該当する場合がある。従って規則二三条二号が病気欠勤を解雇事由から除外したのはそれが不可抗力によるものである故除外したのではなく、長期欠勤者に対する解雇権を被上告人が自ら制限したものと解する他ない。ところで病気欠勤は出勤する意思があるにも拘らずやむをえない客観的障害により労働力を提供できない場合であり、同時に使用者の人員配置や企業運営上著しい支障を来たすことがある事由である。しかし病気以外にも同様な場合事由がありうるし、長期欠勤を病気だけに限って解雇事由から除外する合理的理由もない。従って規則二三条二号の「病気」は例示であり、被上告人は同条号においてやむをえない客観的障害による欠勤者に対する解雇権を一般に自己制限したといわざるをえない。

ところが原判決は病気以外の欠勤は規則六二条に該当するものの他規則二三条二号に該当し解雇事由になるという。しかし規則六二条に該当すればそもそも欠勤ではないのであり、被上告人がその労務政策上採用した解雇権制限にかかる欠勤の趣旨は改めて検討を要する。原判決が病気以外の事由による労働力不提供を全て規則六二条にかからせるのは、前述したとおり原判決が労働契約関係の解釈を誤り労働力不提供は全て債務不履行だという前提に立つからである。

三、原判決は規則二三条の解釈を誤った。

規則二三条一号は懲戒解雇の一般規定であり、同条二号は前述したとおり本件解雇の根拠とされた六〇日以上の欠勤、同条三号は「禁錮以上の刑が確定した場合」を解雇事由と定める。同条四号が「その他会社が前各号に準ずる程度の理由を認めた場合」という一般条項を定め、これに続く同条五号(心身の故障により職務に耐えない)、六号(会社の業務上の都合)を並べていることからみると、被上告人は規則二三条において解雇事由として一号四号(懲戒解雇)、二号三号四号(通常解雇)ならびに五号六号(その他いわば業務上の都合による解雇)の三種の解雇類型を認めた訳である。

同条三号の刑の確定は、それが実刑判決であれば今後相当長期間にわたり労働力の提供がないことの確定であり、同時にその不提供が労働者の責に帰すべきものであることの確定でもあろう。他方執行猶予の判決であれば労働力提供には支障がないから改めて労働者がかかる判決をうけたことが企業の対外的信用を傷つけるか、企業秩序を乱すものであるか等検討し、かかる事由に該当し雇用関係存続の基礎たる信頼関係が失われる如きものであれば解雇が許容されるであろう。

しかし未決の勾留段階では、労働力不提供の期間も不確定であり、また無罪の推定は勾留の結果である労働力不提供についても労働者の責に帰すべからざるものとする推定として働くはずである。実刑判決の確定とは格段の差がある。ところが規則二三条が三種の解雇類型を認め、二号と三号を同列に並べ四号に一般条項を定めたことは、右二号に定める事由と三号に定める事由とを同じ程度の重大さを有するものとして規定したと解釈しなければならない。前述した同条各号の規定の仕方、規定の並べ方は相互に無関係ではなく、各号に定められた解雇事由は相互にその解釈の制約をうけるのである。つまり二号にいう欠勤は、三号の刑の確定に匹敵する程度の労働力不提供の徴表、帰責事由の徴表を含むものでなければならない。上告人の末決勾留がそのようなものに該らないことは明らかである。

しかるに原判決は本件解雇を是認するにあたり規則二三条二号を「長期の欠勤」のみを理由とするものとし、同条各号の相互関係を整合的・合理的に解釈する努力を怠った(原判決一三丁裏)。遡れば前述した労働力不提供は全て債務不履行だという労働契約関係の解釈の誤りに基因する。

第二、原判決は未決勾留制度の解釈を誤った違法がある。

一、上告人は昭和四七年一一月八日横浜市保土ケ谷区東川島町の国道第一六号線上において在日米軍M四八型戦車輸送阻止の闘争に参加して逮捕され、引き続き勾留のうえ往来妨害罪により起訴され、同四八年二月二二日保釈されたが、この長期勾留の結果同四八年二月七日付をもって同年二月九日被上告人から本件解雇の意思表示をうけた。同年二月七日は要出勤日において六〇日目に当る。上告人は同五〇年一一月一七日横浜地方裁判所において右往来妨害被告事件につき罰金四万円、未決勾留日数中一日を金一、〇〇〇円に換算して右刑に算入する旨の判決をうけた(検察官被告人双方から控訴)。

二、原判決は、上告人が結局有罪の判決をうけたのだから、右の逮捕および勾留を違法もしくは不当とすることはできず、上告人の欠勤はその責に帰すべき事由によるものであるとする。有罪であったことは刑事訴訟法六〇条一項に定める勾留の要件のうち「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」という要件を充したというだけで、それだけで勾留の違法不当を論ずることの不当性はいうまでもないが、本件の問題は上告人が同四七年一一月八日から同四八年二月二二日まで一〇七日間にわたり逮捕勾留されたことが事件の性質に照し果して適法あるいは相当であったかということであり、原判決はこの問題を誤って解釈したものである。

未決の勾留は公訴あるいは公判の維持のためのものであり刑罰とは異る、従って刑事訴訟法六〇条一項の要件を充せば被疑者あるいは被告人を勾留できるのであって、その者の犯した犯罪の軽重は勾留の理由と必要には関係がないというのは一応の理論である。しかし勾留も刑罰もその受ける者から自由を奪う点では同じであり、現行監獄法も両者をほぼ同様に取扱い、長期勾留は判決によらざる刑罰の先取りの性格を帯びる。従って事件の性質、その法定刑等に照し勾留には自から期間の制限があるはずである。それは刑事訴訟法六〇条三項、八九条等の基礎にある法理であり、憲法三一条の趣旨であり、更に遡れば勾留と刑罰の比較権衝から知られる法の一般原則ないしは条理である。

なお附言すれば、勾留の必要性の如何もその勾留期間を制約するはずである。刑事訴訟法六〇条一項は勾留の必要性として、住所不定、罪証隠滅および逃亡の各事由を定めるが、同条三項は軽微な事件については住所不定の外勾留してはならないと定める。本来勾留は公判における被告人の身柄の確保のための制度であり、勾留の必要性として罪証隠滅の事由をあげるのは異常とされていることも周知の事実である。住所不定・逃亡という身柄確保にかかわる事由と罪証隠滅という公訴維持の問題にすぎない場合とでは、勾留の必要度にも差があり、従って勾留すべき期間にも自ら差が生ずる。上告人は前記事件で現行犯逮捕されたものであっていわゆる罪体に関する証拠には隠滅の余地がなく、勾留裁判所のいう罪証隠滅のおそれとは前記闘争行動における地位役割等、量刑に関する情状事実につきいうもののようであり、理解に苦しむものがある。

本件の第一審判決(横浜地方裁判所川崎支部昭和四八年(ワ)第一〇三号事件)は上告人の勾留を「往来妨害罪の罪質の程度に照しやや長期に失したものとの感を免れない」とし、被上告人の本件解雇の意思表示に先立ち上告人が保釈の請求その他出勤の努力をしたことを考慮して本件解雇を無効とした。刑事事件の第一審判決は未決勾留一〇七日中の四〇日間の換算算入をもって足る罰金刑である。明らかに上告人の勾留は長期に失したのであり、それが弁護人選任の遅延等、被上告人には関係のない分野に基因したにしてもそれは同時に上告人にとってもやむをえなかったことであり(我が国の現状、特に前記の如き公安事件において、弁護人の早期選任は困難である)、これをもって上告人の責に帰すべき欠勤とするのはあまりに酷である。しかるに原判決は勾留制度の基礎に存する前記制約を理解せず、結局有罪であるから勾留期間の長短を論ぜず上告人の責に帰すべき欠勤としたのである。

三、前記有罪判決自体も問題なのであるが、本件でこれを全面的に論ずるのは不適切である一方、上告人の勾留の適法性、その期間の妥当性等は本件解雇の効力を左右する重大な事情なので、右刑事事件のはらむ問題点のうち一点だけを次に論ずる(甲第一〇号証有倉遼吉教授の論文および甲第二五号証刑事事件判決の一〇丁以下参照)。

道路法四七条一項は「道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため」道路との関係において必要とされる車輛の「幅、重量、高さ及び最小回転半径の最高限度」を定めるべく政令に委任し、同条二項は右政令で定める最高限度をこえる車輛は道路を通行させてはならないと定め、同条三項は橋等の安全限度をこえる車輛につき道路管理者がその通行を禁止または制限できると定める。右の委任政令が車輛制限令である。また同法四七条の二は、右制限令の最高限度をこえ、あるいは右安全限度をこえる車輛について、道路管理者においてやむをえないと認めるときは、必要な条件を付してその通行を許可することができると定める。

昭和四七年夏横浜市内および相模原市内において起った米軍戦車搬送阻止闘争は、周知のとおりその目的は米国のベトナム介入に対する抗議であるが、直接の発端は右の道路法の規定ならびに車輛制限令に基き道路管理者である横浜市長および相模原市長が前記最高限度をこえる車輛である戦車搬送車の通行を許可しなかったことである。ところが日本国政府は同年一〇月一八日政令三七八号をもって車輛制限令一四条を改正し同条に「(日米安保条約に基き)日本国内にあるアメリカ合衆国の軍隊の任務の遂行に必要な用務のために通行する当該軍隊の車輛」なるものを附加することによって右車輛を道路法および車輛制限令の適用除外とし、米軍戦車搬送を再開させようとした。上告人は再開されたM四八型戦車(搬送されていた戦車中の最大重量のもの)の最初の搬送を阻止すべき闘争に参加し逮捕された。

ところで憲法四一条、七三条六号の解釈として、政令は執行命令と委任命令に限られ、その委任命令が定めうることは法律が委任した特定事項に限定されるところ、道路法四七条が車輛制限令に委任する事項は前述した車輛の「幅、重量、高さ及び最小回転半径の最高限度」と「その他車輛制限の基準」だけであって、車輛制限令一四条の如き車輛制限の例外を定めることは元来委任された事項ではない。従って同令一四条はもともと憲法違反の規定というべきであるが、ただ道路法四七条一項の「道路の構造を保全し又は交通の危険を防止する」という行政目的に内在する車輛制限の例外は考えられないでもない。しかしその適用除外例は右の行政目的に副うもの、いわば道路交通に関する一般市民生活の維持保全のためのものに限られるはずである。ところが右昭和四七年政令三七八号による攻正によって附加された「在日米軍の軍務遂行に必要な車輛」を道路法の適用除外とすることは、右行政目的とは全く異質の政治目的を道路法に混入させることになり、法律の委任の限度を超えた政令の制定、つまり政令改正という行政府の行為により法律の目的を変更し、行政府が国会の立法権を侵害するという憲法違反の行為を冒したことである。かかる政令改正が無効なことはいうまでもなく、車輛制限令改正により形式的には合法のようにみえる前記戦車搬送再開は、実は道路法に違反した違法行為であった訳である(事件当時両市長とも道路法四七条の二による許可を出していない)。これを阻止せんとした上告人の行為は本来往来妨害罪などに問われるべきでないが、右戦車搬送車ではない他の車両との関係で往来妨害ないしは道路交通法違反に問われるとしても、本件勾留が右違憲ないしは違法の行為の阻止に出たことが原因であることは、本件勾留の妥当性を考える場合に重大な事情であり、本件解雇の有効無効を論ずるにあたり充分考慮さるべき事項である。

第三、原判決が本件解雇の効力を判断するに際し、被上告人主張の、上告人の経歴詐称、勤怠不良なるものを考慮に入れたのは、被上告人会社の就業規則の解釈を誤った違法がある(原判決一四丁表以下)。

一、上告人は被上告人から規則二三条二号に該るものとして、つまり「長期欠勤」を理由として解雇された。前述のとおり規則の同条四号には「その他会社が前各号に準ずる程度の理由を認めた場合」という一般条項があるが、これは被上告人からその解雇の意思表示において援用されていない。従って本件第一審判決が、右経歴詐称・勤怠不良の事実を本件解雇に関連性がないとしたことは正当である。もし本件解雇に右経歴詐称・勤怠不良が重大な関連があるというのであれば、被上告人は規則の適用条項を厳格に選択のうえ、その事実を不利益処分をうける上告人に開示しかつ上告人に弁明の機会を与えたうえで本件解雇をなすべきであった(Notice and Hearingの原則憲法三一条に関連する)。

しかるに被上告人は上告人が日頃労働組合活動に熱心で職場においてもこれに伴い上司と衝突することが多かったため、上告人を解雇すべき機会をうかがい、上告人の勾留を奇貨として規則二三条二号を自ら選択して要勤務日数において当に欠勤六〇日目に該る昭和四八年二月七日上告人が勾留されていた横浜拘置所に宛て解雇通告を発送した。本訴が係属した後になって被上告人は上告人の経歴詐称あるいは勤怠不良なるものを解雇理由に附加するに至った。被上告人は規則に定められ通常制限列挙と解せられる解雇事由の選択について、その選択の誤りの不利益を課されても仕方ないものであり右経歴詐称や勤怠不良なる事実を本訴係属後に主張することは労働契約関係に随伴する信義則に照しても許さるべきでない。

二、経歴詐称は労務管理上の都合その他企業秩序の問題であるところ、上告人が秘したという経歴の一は被上告人会社における上告人の担当業務にとって有益な専門技術修得ができたところのものであり、この経歴を秘する理由は何もなかったものである。他は飲酒のうえの器物損壊行為(それも大したものではない)のため試採用から本採用にならなかった勤め先があったというだけのことでいずれも被上告人の企業秩序に何の悪影響も与えるべきものでない。

また上告人に遅刻・早退・欠勤が多かったことは上告人の病気に起因し、それは通院治療のためであり被上告人の承認を得ていたものである。かつて承認を与えた欠勤等につき後日これを解雇の理由に附加することは、就業規則の解雇事由の解釈として違法であり、また雇用関係の基礎たる信義則に違反するといわざるをえない。

しかるに原判決は右いずれも解釈を誤り、企業秩序に何の悪影響もない経歴詐称や使用者の承認を得て治療のため病院へ通う結果である欠勤等を、解雇事由に「綜合して」考慮すべきだというのである。

明らかに違法であって破棄さるべき判決である。

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